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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1322号 決定

抗告人

海老沢吉雄

右代理人

川勝勝則

相手方

高津戸政雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由は、「建築基準法六五条は民法二三四条一項の特別法ではないのに原裁判所はこれを特別法と解して抗告人の仮処分申請を却下した。原決定は違法であるから、これを取り消すことを求める。」というものである。

よつて判断するに、民法二三四条一項の規定(昭和三三年法律六二号による改正前においては、保持距離は一尺五寸とされていた。)は、それが設けられた民法制定当時のわが国における標準的な慣習を基礎とし、その慣習は日本古来の木造建物に関するものであるが、現在は、いうまでもなくその当時と建築状況が著しく異り、耐火外壁の建築物が数多く建築され、また、土地の合理的な高度、効率的利用が要請される時代であり、そして、右に述べたとおり右規定自体慣習を基礎とするのみならず、民法二三六条は同法二三四条一項の規定に異なつた慣習あるときはその慣習に従うものとして実情を重んずるものであるところ、防火地域又は準防火地域内における外壁が耐火構造の建築物については同法二三四条一項所定の距離を置かない場合が多いのであつて、そうである以上、相隣者の立場をも考慮したうえ、防火地域又は準防火地域内の建築物で外壁が耐火構造のものに限つてその外壁を隣地境界線に接して設けることを許し、その余の場合はなお民法の規定に従うべきものとすることは、現在の建築状況にかなつた妥当なものということができ、かかる趣旨に出たものと考えられる建築基準法六五条の規定は、民法二三四条一項の規定を排除して適用さるべき特則として設けられたものと解するのが相当である。したがつて、抗告人の抗告理由は採用することができず、他に原決定にこれを取り消すべき違法の点は見出せない。〈以下、省略〉

(小林信次 鈴木弘 河本誠之)

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